人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Marehitoの溺れる魚は鳥かもしれない

ブログトップ

「生協の白石さん」が売れている件について

『生協の白石さん』が売れています。本になると聞いたとき、まさかここまで売れるとは思いませんでした。ハガレンに勝つとも思いもしませんでした(笑

<生協の白石さん>
『生協の白石さん』は、東京農業大学の生協に勤務する白石さんが、要望コーナーの一言カードを通して、ネタ的な要望や質問に対して、無視したり黙殺したりせず、きっちりと答えていく、ユーモラスなやり取りを一冊の本にまとめたものらしいです(読んでないので・・・)。最初ネットで話題になったときは、「白石さん」が男性なのか女性なのか、その人物像に対する興味の集中が多かったような気がします。名前からして女性だと考えていた方も多かったようですね。この白石さんがネットで話題になったとき、最初に私が思い浮かべたのは、ヤフオクで話題になったある人物のことでした。

<ヤフオク出品者との類似性>
その人物とは、確か少年サンデーだかチャンピオンだかを、何年分か持っていて、それを出品してきたのです。出品された品物も面白かったため(プレハブに山と詰まれた漫画雑誌の写真付き)に話題になり、「出品者に対する質問」のコーナーに訳の分からない質問が書き込まれるようになりました。しかしその人物は、書き込まれるネタ的な質問に、驚いたことに一つ一つ丁寧に答えていったのです。さらに増えていく質問、すぐさま答える出品者。しだいにネットでは出品品の面白さより、出品者の性格の良さ、誠実さに注目が集まるようになっていったのです。

<コミュニケーションの回路>
『生協の白石さん』とヤフオクの漫画雑誌出品者との類似性は、「匿名のメディア」に対してなされる当てのないメッセージへの向き合い方の類似性と言えます。例えば生協の要望コーナーに対して「牛を置いてくれませんか?」という「要望」は、生協に対する要望ではなくて、それを読むであろう一般学生へのネタ的なメッセージです。ヤフオクの出品者に対して、「今日の夜食はなんですか?」と質問することも本来設定されているコミュニケーションコードを逸脱している「ノイズ」にすぎません。注目すべきなのは「白石さん」も「ヤフオクの出品者」も「ノイズ」をしっかりと拾い上げて、それを出来る範囲できっちりと打ち返していることです。本来は「ノイズ」にすぎないものを「適正なメッセージ」として対応しているのです。

<ゴースト>
匿名のメディアに浮かび上がるノイズは、あてもなく彷徨うゴーストに似ています。ノイズに対して、あたかも適正なメッセージのように対応するということは、浮かばれない霊を供養するのによく似ています。しかし注目すべきことは、供養するものと浮かばれない霊との関係がある種のヒエラルキーを前提にしてしまうのとはべつに、白石さんもヤフオクの出品者も対等の関係を前提としていることです。対等の関係でゴーストを供養する、この肩の力の抜けた柔軟性とユーモアが、今、非常に歓迎されているということが言えるのではないでしょうか。

それは逆にいえば、TVの中で必死に自己弁護に努める人達が、あたかも全てをオープンにするかのようなポーズをとりながら、記者会見やテレビ番組に出演しつつ、実際には何も意味のあるメッセージを発しないで状況をやり過ごそうとする、不毛なディスコミュニケーション状況を産出しつづけているのとは全く別の、裏のメディアとも言える匿名性のメディアにおいて起きているという事が(話題になった2chの「電車男」を始めとして)、現代の情報化社会におけるメディアの階級性と特異性を激しく浮き彫りにしているように思えるのです。

コミュニケーションとは「透明な存在」が、「透明でなくなる」瞬間のことかもしれないとするならば、匿名性のメディアにおいて生じているこうしたコミュニケーションのありようをもっと真剣に考えていく必要があるのかもしれません。
by SpeedPoetEX | 2005-11-25 00:44 |